第53章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-参-
「あかん。見えとんのに閉まったままや」
食事が出てくる二両目に戻ってくると、向こうの扉を覗いていた直哉くんが膨れながら席に着いたところだった。
「どうかしたのか?」
五条先輩が問うと夏油先輩は肩をすくめる。
「それが三両目の景色が見えたところまでいいんだが肝心な扉が開かなくてね。押しても引いても詰み状態」
どうやら一両目にいた時と同じ現象が起こったが、今回の扉には苦戦しているようだ。
ゆっくり歩く五条先輩は扉の前で立ち止まると、向こうの車両を覗き込むように腰をかがめる。
「洗面所に脱衣所…、すりガラスの向こうは浴室か?あとはベッドと娯楽があれば最高じゃん」
「悟。これをどう見る?」
「拗らせてたまるか」
そう言えば夏油先輩が一度で受精はできないって言っていた。
奇妙な電車の中に閉じ込められ、整った環境がまるで「長期戦」を意図しているかのように見えてしまう。
自分の目でも確かめたいと席に座らずにそわそわしていると五条先輩はクイクイっと手招きする。
心なしか五条先輩は穏やかな表情をしていた。
「無理そ?」
「ふんぬっ!…うぅ…わたしでもダメみたいです」
「コイツが鍵じゃねぇか。…いや、待てよ?」