第52章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-弐-
「…夏油先輩、あ、ありがとうござぃます…」
すっかり媚薬も抜け、やや気まずくなりながらも夏油先輩は乱れた制服や髪を直してくれる。
触れるたびに離れたくないと言っているみたいだ。
誰にでも優しい夏油先輩を独り占めした気分になって何だかちょっと照れくさくなる。
「礼を言うのは私の方だよ。痛くなかったかい…?」
「はい、どこも」
気持ち良かったです、と素直に言えれば良かったがその前に耳まで熱くなって言葉をつむぐ。
するとクスッと笑った夏油先輩は額に優しいキスをしてくれる。
「それじゃあ戻ろうか。一度で受精するとは限らないし」
「えっ?そうなんです…か…ッ」
トイレの扉が開くとその瞬間、夏油先輩が何者かによって手前に突き飛ばされた。
油断していたとはいえ、こんな乱暴なことをするのはわたしの中で一人しか知らない。
「悪いみょうじ」
「え」
出入口が閉まり、立ち塞がった五条先輩とトイレの中で二人きりになってしまう。
「責任なら俺もとる」
五条先輩の大きな躯体が襲い掛かってきた。