第51章 五/夏/七/甚/直 妊娠しないと出れない電車-壱-
ただ夏油先輩がほんの一歩を踏み出す勇気をくれたから、手のひらに指先を少しずつ乗せていく。
「今できたよ。みょうじ、愛してる」
ぎゅっと手を握られて、とっさに怖くなって手を引いてしまった。
何やってるんだろう、わたし。
震える指先を握り締めるも嫌な汗しか出ない。
「…ごめん。急ぎすぎたね」
「え…。違っ、違うんですっ!!わたし…その、全然、…嫌とかじゃなくて…っ」
夏油先輩に手を握られた瞬間、薄らぼんやりとしたピンク色の光景が脳裏を駆け巡った。
引き締まった夏油先輩のボディー。
裸になって抱き締められているわたし。
夏油先輩が上になって、下になったわたしは気持ちよさそうに喘いでいる。
少ない知識の中でそんないやらしい妄想が駆け巡ったのだ。
傷付けるつもりなんて毛頭なかったのに夏油先輩は沈んだ表情を浮かべてしまう。
「…すみません。どうしたらいいのか分からなくて」
膝に戻した夏油先輩の手にもう一度触れる。
今度は両手でしっかりと、離さないように大きな手を握り締める。
「異性と手を繋いだこともないのかい…?」
恥ずかしくて声を出さずに頷く。