第38章 夏油傑 親友の彼女-壱-
当初、同級生は三人だと聞いていたが悟と硝子の二人だけ。なまえは二ヶ月遅れて入学してきた。
ちょうど悟と二人で遠征任務中だったので
少し遅れての顔合わせになり、
夏場はほとんど高専内ですれ違う程度の会話しかなかった。
「傑。なまえのことどう思ってんの?」
「どうって?何のことだい?」
「恋愛感情あんのかって聞いてんの」
残暑が終わりかけた頃、たまたまなまえと私が二人きりでいるのを見かけたんだろう。
いま一度、自分の心に問いかけてみるも
答えは決まっている。
「呪術師に恋愛する暇なんてないよ」
「あっそ」
恋愛に関して悟も自分と同じ考えだと思っていた。
家系の出である悟はいずれ妻子をつくる役目はあるだろうが、それはなまえではなく顔の知らない相手だと勝手に決めつけていた。
それから程なくして、悟が何気なく「なまえ」の名前を口にした時、違和感を覚えた。
締まりのない表情も、彼女を見つめるその眼差しも、
素直に感情を剥き出している悟をみて思い知った。
あの二人は付き合っている。
女性として惹かれる瞬間があっても
これは意味がない感情だと蓋をすることで制してきた。
恋する暇もない術師と同じように誰のものにもならないと勝手に思い込んでいた。