第30章 伏黒甚爾 寝取られ妻-肆-
「お互い家のことは何も話してなかったな」
「…いいわよ。思い出したくもないし死人も同然」
動けない父親と金をむしってくる母親。
それに加えて夜遊びを教える姉がひとり。
友達やまともなおじさんのところに家出して、あちこち拠点を移しながらのし上がることばかり考えて生活していた頃が懐かしい。
「アナタもなかなかね。おばあちゃんたちを口説いてて」
「はっ、お互い様だろ。谷間強調してこき使ってた」
「それは相手が勝手に覗いてきただけ」
お互い言いたいことを言い合ってムスッとしたけど、フッと笑いが込み上げる。
「こんな会話久しぶり」
「俺も。結婚したときみてぇだ」
「…?」
過去を思わせる言葉に、思わずジッと見てしまう。
「別に黙ってたわけじゃねぇよ…」
「ええ、ちょっと驚いただけ。
そう…結婚してたのね…」
ずっとフラフラしているイメージがあった。
夫に雇われる前はとても口にはできないような仕事をしていたのは聞いていたけれど。
「怒った?」
「ううん」
「じゃあ妬いた?」
「ううん」