第1章 東卍童話パロ ヘンゼルとグレーテル
昔々、とある森の傍らに佇む小屋に、スマイリーとアングリーという双子の兄弟が、木こりの父と継母と一緒に暮らしていました。
飢饉があってろくな食べ物も採れず、生活は苦しいものでした。継母のココは良質な木材がない森にアテが外れ、貧しい暮らしに不満を抱いていました。
ある日の夜、ココは我慢出来ずに、夫のイヌピーに向かって日頃の鬱憤を晴らすように怒りをぶつけます。
「あのガキ共、ろくに働きもしねえで遊んでばかりだな」
「…まだ子供だぞ?」
イヌピーはその矛先が子供たちに向けられているのに驚きました。
「アイツら、金を作るどころか金食い虫だ」
「育ち盛りだ、仕方ないだろ」
「こんなんじゃ、この先どうやって食っていくつもりだよ?」
夜、トイレに起きた兄のスマイリーは偶然にも、そんな父と継母の会話を聞いてしまうのでした。
「捨てようぜ、森に」
食い扶持を減らそう、という提案を持ち掛けられ、イヌピーは重いため息をつきます。
「ハイキングに連れ出し、途中で置いていく」
「…騙すのか…」
無慈悲な話にいよいよ頭を抱えますが、この貧しい状況ではイヌピーは承諾するしか手がありませんでした。
「え……オレらを、捨てる…?」
聞こえてきた会話の内容に、スマイリーはひどく傷付きました。けれど兄として弟のアングリーを守らねばという思いが先に立ち、行動を開始します。
「にいちゃん…どこ行くの?」
部屋に戻り様子を覗うと、被った布団から顔だけ出したアングリーが寝惚けながら尋ねてきます。
「石拾ってくるわ。お前は寝てろアングリー」
スマイリーはそっと部屋を抜け出し、庭で小石をポケットいっぱいに拾っておきました。
翌朝、父達は早速計画を実行します。ハイキングに連れ出すと見せかけて、子供たちを森の奥へ置き去りにしました。
しかし、スマイリーが拾っておいた石を同じ間隔で道に落としていたことで、それをたどって迷わずに家まで戻ることが出来ました。
「なっ…戻ってきてんじゃねーか!」
帰って来た二人を見て、ココが驚きの声を上げます。そして再びイヌピーに持ち掛けるのでした。
「…仕方ない。もう一度やるぞ」