第5章 だし巻き卵は母の味
「一応いるかと思って持ってきたんだ。あれならずっとうちに保管しておいてもいいんだけど何かあるといけないと思って。」
吾郎さんから差し出されたその服は正しく吾郎さんと出会った日に私が着ていた高校の制服だった。スカートにワイシャツにブレザー、靴下までもがきちんと畳んであり持ってきてくれたのだ。
「わざわざ持ってきて頂きありがとうございます。そうですね。自分のなのでこのお店の奥深くにしまっておきますね。」
私は制服を受け取って一旦、お店の奥深くに歩いて行った。そして戻ってきてから綾さんにどんな献立がいいか聞いた。そして私の時代の話も参考になればいいなと思い提案してみることにした。
「実は私が未来の時代にいた時の話なんですけど、赤ちゃんと触れ合う機会が寺子屋でありましてその時に少し妊婦さんについて学ばせてもらったことがあるんです。私の時代ですと鉄分やタンパク質のある食材を摂るのがいいと聞きました。鉄分というのはマグロや果物に多く含まれる成分だそうです。タンパク質はお豆腐や豆類がおすすめですよ。あとは卵ですね。」
「なるほどー穂乃果さん詳しいね。」
吾郎さんが感心して言った。
「タンパク質となると・・・だし巻き卵なんかどうですか?あと鉄分になるとマグロのマヨネーズ和えおむすびなんかもおすすめです。元気な赤ちゃんを産んでくださいね。陰ながら応援してます。あっ!そうだ。小さい歯ブラシのお守り作りましょうか?出来上がったら届けようと思いますけどどうしますか?」
私の提案に綾さんはお礼を言って受け入れてくれた。
「そこまでしてもらってわるいわね。ありがとうございます。」
それから吾郎さん達と会話を交わしながら私は特別献立を作ってお出しした。
「いやーお店賀開店してる時に来ても良かったんだけど大事なものを返さなくちゃと思ってね。定休日に押しかけてすまなんだ。」
「そんなことないですよ。来てくださって嬉しかったです。さぁ、特別献立ができましたよ。」
「いただきます。」
吾郎さんと綾さんは笑顔で特別献立を頬張ってくださった。帰り際にお会計のことを聞かれたけどこれは私からのお祝いなので無料だと伝えたら申し訳なさそうにお礼を言って帰って行った。