第5章 だし巻き卵は母の味
そして六月になった。雨がしきりに降る中、お客さんがたくさん来てくれる。そして六月の限定献立も好評だった。
「いわしのつみれ汁ください!」
「今、準備しますね。」
イワシは小骨が多いからよく叩いてから調味料を混ぜて団子状にする。出汁の効いたあったかい汁でぐつぐつ煮ているといい香りが漂ってきた。新作の飲み物は女性達から好評で次々と注文が入る。
そして勿論、お店を始めてから研究してきた味噌作りも日々腕を磨いている。まだ、お客さんに出せるまではいかないけど、とりあえずの味噌は出来上がって樽に保存するまではできた。ここから一年間はじっくり発酵して寝かせるのだ。
「味噌作りもうまくいくといいなぁ。」
お客さんの笑顔が見られるのが楽しい。皆んなが美味しそうに飲んだり食べたりしてくれている。お昼はいつも賑わいを見せている。
また、朝食の時間は武士の方たちが大勢やってくる。
「朝の時間に提供してくれるのがありがたいね。」
と口々に言ってくれる。
「それは何よりです。お腹いっぱい食べて行ってくださいね。」
そして夕食どきは家族連れも多く訪れる。江戸っ子の子供達はとても可愛く癒される。
「これおいしいよ!」
と言ってくれて家族の会話も弾んでいる。
あっ、そうだ!家族連れも最近多くなってきたしキッズプレート作ったら喜ぶかな?この日の仕事終わりに私は手伝いの女性達にそう話した。
「私のいたところではお子様ランチといって子供向けのお膳があったんですよ。お料理も子供の好きなものが少ない量で色々乗っていたので私たちのお店でも作りたいと思います。子供向けのお膳は期間限定ではなく通常の献立でお出ししましょうよ。」
「それいいわね。じゃあ、どんな献立がいいかしら?」
女性達とそんな話で盛り上がってこの日はお開きとなった。