第5章 だし巻き卵は母の味
竹割りが終わってお店の中で私は作業をしながら続逸さんと言葉を交わした。
「武士なんですね。でも用心とか戦がない限り出番ないような?私だったら無理かもです。毎日が緊張しちゃいそうで。」
私は竹の形を作りながら聞いた。
「それが慣れちまってそうでもないんだよー。」
続逸さんは笑顔で答えてくれた。
外は雨がしきりにざあざあと降っている。まだ止みそうにない。
「こんな基本的なこと聞いてすみませんけど、武士ってそもそもお休みの日とかあるんですか?」
「それなんだけどな。戦がなかったり、用心ごとがないと基本休みかな?でもいつ呼ばれるか分からんのでね。あまり大きな予定は組めないがね。」
続逸さんはちらっと窓の外を見て言った。
「それじゃあ、のんびりしてられないですね。」
「それもそうだな。」
それから私達は笑い合った。こんなに人と笑い合うのっていつぶりだろうか?
続逸さんと話しているととても楽しく時間を忘れそうになるほどだった。
暫くして私の歯ブラシ作りも進み雨も止んできた。
「雨、止んできましたね。」
あんなにざぁざぁと降っていた雨もポツポツと音がするまでになった。
「そろそろ俺はお暇しますか?またいつ雨が激しくなるか分からんし、今のうちに帰りますわ。ほな、雨宿りありがとうな。」
続逸さんが椅子から立ち上がり帰ろうとしたのを私は引き留めて言った。
「こちらこそ楽しかったです。ありがとうございます。あの、よろしければ連絡先かなんか・・・住所で構わないのでこちらに書いてもらえないでしょうか?手紙のやり取りをしたいなと思いまして。」
私の問いかけに頷いてくれて巻き物に住所を書いてくれた。これで続逸さんと繋がるきっかけができた。
「ほな、手紙はいつでも待ってるからな。歯ブラシ作りご苦労さん!」
続逸さんは手を振って帰って行った。
あれ?なんだろう・・・・この気持ち?続逸さんが帰った後はなんだか胸騒ぎがした。こんな感情になるのは初めてだった。