第12章 初めましてと秋刀魚の季節
秋も後半に差し掛かった頃に私はいつも通りに歯ブラシセットを作っていた。この日はお店がお休みなので山に行って竹を取ってきた後に歯ブラシセットを作るべく竹を斧で割っていたのだ。
すると慌ててお店の扉を叩く音がした。
ドンドンッ。
「誰だろう?」
そう思って扉を開けると吾郎さんがいた。走ってきたのか息を切らしてゼイゼイ言っている。
「どうしたんですか?」
私が聞くと息切れをしながらこう言った。
「はぁはぁはぁ・・・生まれたんだよ。」
「もしかして綾さん、出産したんですか?」
私が聞くと頷いたので作業は中断して吾郎さんと一緒に家に向かった。
家に断って入ると布団に横たわってる綾さんと赤ちゃんがいた。
「うわぁ、かわいい。」
おくるみに包まれた赤ちゃんがにこにこしている。
「かわいい女の子が生まれたんだ。穂乃果さんには一番に報告しなきゃと思ってな。」
吾郎さんが紹介してくれた。
「綾さん、ご出産おめでとうございます。そしてお疲れ様でした。初めての育児で大変かと思いますけど私のお店に気兼ねなく来てくださいね。また大変でしたらお台所をお貸しいただければ私が休みの日は作りに行きますので、なんなりと言ってください。」
「穂乃果さん本当にありがとうございました。穂乃果さんの美味しいおむすびで妊婦生活も乗り切れましたわ。」
嬉しそうに言う綾さんにつくづく思う。この時代には麻酔なんてないしましてや無痛分娩なんてものもない。
普通分娩でも現代では股を割く時くらい麻酔を打つのにこの時代にはそんなものはないから相当、痛かったに違いない。
本当におめでとうございますと私は幾度となく言って目に溜まった涙を待っていた布で拭いた。
「お名前とか決まってるんですか?」
私が聞くと綾さんがにこやかに答えてくれた。
「笑う子で笑子(えみこ)にしようと思ってます。生まれた瞬間に最初は泣いてたけど泣き止んで笑い始めたからこの名前がいいかなと思って。」
「そうなんですね。笑子ちゃん、こんにちは!私の名前は穂乃果って言います。美味しいおむすびと歯ブラシセットを作ってるよ。よろしくね。」
笑子ちゃんは素敵な笑顔で手足をバタバタさせていた。
「あっ、そうだ。笑子ちゃんも生まれたばかりで大変でしょうから今日の夕飯は私に作らせてください!」
「いや、でも穂乃果さんは作業の途中だったんでは?」
吾郎さんがそう聞いた。