第11章 秋祭りと新米の季節
そういえば随分とお肉を食べてないわね、私はお店の掃除をしながらそう思った。焼肉もステーキもハンバーグも豚肉の生姜焼きだってもう何年も食べてないような気がする。実際には江戸に来てまだ半年過ぎただけなのにそんな気がした。
もう、お肉の味なんかすっかり忘れてしまったの。
江戸では稀に猪や鹿などのジビエを食べることはありますがそれ以外は滅多にお肉を召し上がらないわ。牛肉が食べられるようになったのは明治に入ってから。
でも、お肉が恋しいなんて思ったことは一度もなかったのよ。それでも時々思うところがある。
ハンバーグを何かで作れないかということ。そして生姜焼きだって味付けさえしっかり同じに作れば豚肉じゃなくてもいいんじゃないかということ。
「ハンバーグは豆腐とかおからでも作れるっていうけどそれだけじゃ、パンチが足りないっていうか・・・。この頃、期間限定で売り出してる鮭とはんぺんのかつれつが好評でだ。だとしたら豆腐と鮭でハンバーグを作るか・・・鯖と豆腐でもできるかもしれない。繋ぎに卵を入れたとしてもパン粉はない。だからそこにお麩を入れたらいいんじゃないかと思う。ついでに片栗粉で粘りを出せばできないことはないかな?」
私はハンバーグをよく作る時はフライパンで焼き目をつけてからオーブンに入れて焼いていた。でも、鍋の蓋をしっかりして焼けば中まで火が通ると思う。
「それじゃあ、生姜焼きは何で作ろう?茄子では味気ない気がするし、にんじん?じゃがいも?里芋では味が合わない気がする?そこもやっぱり魚で行くべきなんだろうか?だとしたら何の生姜焼きにするか?ニシンとかどうかな?」
私の献立書き帳は二冊目を迎えた。一冊目もかなり書き込んだからなぁ。
未だに試行錯誤が続く日々。
ここまできたら既存の献立を江戸風にするのではなく自分の道を切り開いて新たな献立を生み出したいなと思った。