第3章 車上の戦い
――ロイ・マスタングside――
この日、東方司令部は朝から騒がしく慌ただしかった。
「乗っ取られたのはニューオプティン発特急〇四八四〇便。東部過激派"青の団"による犯行です」
東方司令部幹部であるハクロ将軍が乗った列車が乗っ取られたという。
彼等の要求は、現在収監中の指導者を解放する―――という、なんともありきたりなものだった。
「―――で、本当に将軍閣下は載ってるのか?」
「今、確認中ですがおそらく」
ファルマン准尉の言葉に大きなため息を吐く。
夕方からデートだと言うのに、なぜこんな日に限ってこんな面倒な事が起こるのか。
残業はせず、夕方のデートに間に合うようにするには……。
「ここはひとつ、将軍閣下には尊い犠牲になっていただいてさっさと事件を片付ける方向で……」
そうなれば上の席が一つ空く。
事件も早期解決しなおかつ昇進する可能性もある。
一石二鳥とはまさにこのことだな。
「バカ言わないでくださいよ大佐。乗客名簿あがりました」
そんなことを考えていると、フュリー曹長が乗客名簿が書かれた紙を差し出してきた。
名簿には確かにハクロ将軍と彼の妻と子供の名前が書かれている。
「あー。本当に家族で乗ってますね、ハクロのおっさん」
「まったく……東部の情勢が不安定なのは知ってるだろうに。こんな時にバカンスとは……」
言いかけて私は言葉を噤んだ。
見知った名前がふたつ、目に留まる。
自然と口角が上がるのが自分でもわかった。
「諸君、今日は思ったより早く帰れそうだ」
まさかこの列車に乗っていようとは。
「鋼の錬金術師と彼女が乗っている」
「……運が、悪いっスね」
ハボック少尉が乾いた笑みを浮かべた。
運が悪いのは果たしてどちらか。
指を鳴らし、名簿の書かれた紙を焼き捨て私は駅へと向かった。