第2章 炭鉱の街
「よほどうれしかったのね。ありがとう」
「……こんなことになるまで気付けなかった私達の落ち度です。でもこれからは素敵な炭鉱の街になると信じています」
「ええ、そうなるように頑張るわ」
「いつか、またお邪魔させていただきます」
「いつでも遊びに来て頂戴。夫も息子もきっと喜ぶわ」
目じりにたまる涙を拭って夫人は笑った。
ほしかったものがある。
抱きしめてくれる両親。
帰りたいと思う温かい家。
みんなが笑っている場所。
ここにはそれがたくさん詰まっている。
羨ましいと思う。
羨ましと同時に怖くもある。
自分には決して手に入れることのできないものだから。
自分には手に入れる資格がない代物だから。
夜が明けていく。
赤らむ空を眺めながら、私はすこしだけ目を閉じた。
厚かましい願いを夢の中に置いて、次に目を開けたときにはなにもなかったことにして。
次の日。
昨夜の続きとでも言わんばかりに騒ぐ彼等に、私はお店のことを話した。
昨日のうちに直したと言えば、力強く抱きしめられ、夫妻の泣く声が耳に響いた。
「あんたらには世話になった」
「こちらこそお世話になりました」
「いつでも遊びに来てくれ。その時はご馳走を用意して待ってるから」
駅には炭鉱の人たちが全員集まり、兄弟や私に何度も何度も感謝の言葉を伝える。
時間になり、記者がゆっくりと動き出す。
汽車が遠のくその時まで大きく手を振る彼等は、満面の笑顔でキラキラと輝いていて、あまりの眩しさに思わず目を細めた。
みんなに見送られながら、私隊はユースウェル炭鉱を後にした。