第6章 希望の道
ラストの爪がキリの首を挟む。
少しでもその手を捻れば、キリの細い首は簡単に跳ね飛ぶだろう。
「やめろ!!その子は関係ない!!」
そう、無関係の子供だ。
何も知らない無垢な子供だ。
そんな子を巻き込むなんて……。
しかしこいつらにとってはそれこそ関係のない話なんだ。
目的のためなら手段を択ばない。
目の前の小さな命。
研究資料の居場所。
天秤にかけた時、どちらに傾くかなんて……。
すまない。
本当にすまないと思っている。
だけど、私は医者だ。
目の前の命を見放すなんてこと、できなかったんだ。
「国立中央図書館とはやってくれるわね。てっきり持ち逃げしたものだと思ってたわ」
解放されたキリの元へ駆け寄りその身体を抱きしめる。
どこも怪我をしていないようだ。
泣きじゃくるキリを宥めながら、私はラストを睨んだ。
「おまえ達はいったい何者だ……。"人柱"とはいったいなんなのだ!?」
「心配しなくてもじきに身をもって知る事になるわよ。それまで生かしておいてあげるわ、マルコー」
「…………っ」
「また逃げようとか私達の仕事のジャマしようとか考えない事ね。変な気をおこしたら、そうね……この町を地図から消してあげましょう」
そう言ってラストは姿を消した。
人の弱みにつけこんだ脅し……。
これで私は逃げることも隠れることも自死を選ぶこともできなくなった。
「せんせぇ……っ」
「大丈夫だよ、キリ」
幼い子に怖い思いをさせてしまった。
今日起きたことを早く忘れてくれると嬉しいが、心の負った傷はそう簡単には治らない。
嗚咽を零し続けるキリを私は優しく包みこんだ。