第4章 錬金術師の苦悩
階段を降りていく大佐たちを見ながら、私はエドワードくんに近づいた。
「エドワードくん」
「………んだよ」
あの時、あなたが私を止めてくれていなかったらきっと私は今以上に後悔していただろう。
そしてあなたたちとこうして面と向かって顔を合わせることもできなかっただろう。
愚かな私を、未熟でどうしようもない私を、助けてくれて。
「ありがとうございます」
私は深々と頭を下げて、先を行く大佐たちの背中を追いかけた。
「……何を話していたんだ?」
先に車に乗り込んでいた大佐がそう尋ねた。
運転席に乗り込み、エンジンを掛けながら私は言った。
「……殺そうと思ったんです、タッカーさんを。軍法会議に問われてもいいと思いました。それほどまでに殺したいと思ったんです」
「…………」
「でも、止められました。エドワード君に"人は殺させない"と言われて」
「ほぅ……鋼のがそんなことを」
「"雪女"だってことも知られてしまって、人を殺したこともあるのに」
「……エドワードくんはタッカー氏を庇うことであなたのことを守ったのね」
「はい。今さら人をころしたところで何も変わらないのに、エドワードくんは私が傷つく姿は見たくないって言ったんです。バカな人だと思いました。でも、今になって殺さなくてよかったと、安堵しました」
「運転、変わるわよ」
「……いえ、大丈夫です。何かしていないと、泣いちゃいそうで……」
そう言うが、既に私の頬にはいくつもの涙が零れていた。
鼻を啜って涙を拭う。
その様子を大佐とリザさんは知らない振りをしてくれていた。
雨はまだやまない。
だけど、先ほどよりは少しだけ止んだような気がする。