第2章 「早く言えよ」
「ねぇ、何か言いたいことあるの?」
「え?」
俺はおんりーへ視線を戻す。真剣そうな眼差しに俺は思わず釘付けになる。その視線を、俺は今独占しているというのか。
「ドズルさんたちが先に帰ったのも何かあるからなんでしょ」
さすがおんりー。鋭いアナタには敵いませんな。
「えーっと……」
こんなところで言ってしまっていいものなのか? 散らかった飲食店の個室で。周りがざわついていてロマンの欠片もない場所で?
「はっはっはっ、本当に何もないんだって」
笑いながら視線を外して誤魔化そうとしてみる。だがおんりーがこちらから一切目を逸らしていないのは痛い程感じた。
「気付かないと思った?」おんりーが畳み掛けるように言った。「いいから早く言えよ」
俺は笑っていられなくなった。そんな言われ方ある? 今まで聞いたことねーよ。ドラマじゃ失格の演出だ。ドラマなんてあまり知らねーけど。
「えー、おんりー……知ってましたか」
俺はさすがに姿勢を正した。おんりーは変わらず姿勢はいつもいいし、身動ぎ一つしない。顔を上げるとおんりーの目と合った。もう、逃げられないと思った。
「……信じられないかもしれないが」俺は大きく息を吸って話し出した。「俺は、おんりーのことが好き、みたいだ」
ぐっと熱が上がってくる感覚があった。だけど今はアルコールのせいで、顔が赤いのは隠せているだろう……多分。
「いつからか分からないけど、そのー……まぁ、きっとずっと前からだ」
おんりーの目がずっと俺から離れない。なんで黙ってるんだ。あと他に俺は何を言えばいいというんだ。
「別に、付き合って欲しいとかって感じじゃないんだ。俺たちは忙しいし、ただ伝えたかったってだけだし、おんりーはいつも通りにしてくれたら、それで……」
「いいけど」
「……え?」
「いいって言ってるじゃん」
「え、何が……」
「だから、付き合うこと」
「……は?」
「失礼します。ご注文の品を持ってきました」
丁度いいタイミングなのかなんなのか、おんりーがさっき注文していたデザートが部屋に運ばれてきた。おんりーは何食わぬ顔でありがとうございますと言ってデザートを受け取る。
俺は店員が出て行ったのを見てもう一度おんりーの方へ目を向ける。淡白な表情のおんりーがスプーンでデザートを頬張りながら、確かに顔の筋肉がわずかに緩んでいるのが見て取れた。