第1章 ミックスジュースの味
こちらと目が合って、おらふくんは急に黙り込む。いつもにこやかな彼だが、同時に真剣さをどこかで併せ持つ二面性を、俺はどこかで感じていた。
何も見抜かれたくなくて、俺は素早く言葉を返した。
「……何?」
「僕のこと、めっちゃ見てくるなぁって思って」
「え」
え?
いや、そんなつもりはなかった。人間観察くらいこんなもんだろうと思っていたのに、思い返せば、ずっと彼の仕草や口の動きばかり見ていたし、目を逸らしても笑った声が耳に張りついて離れなかった。
「なんで目逸らすん?」
おらふくんが顔を覗き込んできた。やめて、と言うよりも早く、おらふくんはからりと笑った。
「おんりー、めっちゃ顔赤いで?」
「えっ」
「注文の品をお持ちしました」
なんというグットタイミングか、いや、バットタイミングだっただろうか。
俺たちが頼んでいた飲み物を運んできたウエイトレスが、そう言いながらテーブルに飲み物を置いた。
「以上でよろしいでしょうか?」
「うん!」
俺があまり答える派ではないと知っているおらふくんが、真っ先に返事をする。うんじゃないだろ、うんじゃ……なんて思いながらも、俺はとにかく熱くなった顔をどうにか冷まそうと、別のことを考えようとした。
「あ、おんりーはミックスジュースなんだ!」
また、おらふくんが向かいの席でにこりと笑った。そこには、もう自分を疑っていたのか心配していたようなおらふくんはもういない。
それがちょっと残念なような気持ちがして、いや、何を考えているんだと気持ちを振り払う。
俺は適当に返事をし、カップへ手を伸ばした。ひんやりと冷たいミックスジュースは、口に含むとほんのり酸っぱい味がした。
例えるなら今俺はこんな気持ち。おらふくんには上手く隠せる気がした。
「それ美味い?」
「ああ、まぁ普通かな」