第5章 パスタに絡めて
「まだ出来てないよ」
と言うと、おらふくんはクスリと笑って、
「美味そうな匂いやったからつい来ちゃった」
そんなおらふくんの表情すら愛おしいと思う。俺ってこんなに彼に惚れているんだろうなぁと思うとなんだか悔しい。おらふくんは今ここで笑ってるおらふくんしかいないのだ。
「出来たよ」
盛り付けも完璧。完成したパスタを見て皿を運ぶ。わーいと子どもみたいに喜ぶおらふくんはとても無邪気だ。邪な感情を抱いている俺とは違う生き物みたい。
「じゃあいただきまーす!」
どうぞ、を合図に早速フォークにパスタを絡める。らいくんはすっかりおらふくんに懐いて膝の近くで丸くなっていた。いいな、俺もそうやって近づきたい、なんて猫に嫉妬を抱いてみる。そんなこと思ったって、気持ちも現実も変わりはしないけど、心の中なら何を思ってもいい、気がする、今は。
それよりおらふくんは、と視線を上げると、前見た時よりフォークの使い方が上手になっていた。つい、目が奪われる。
そんな気持ちになんて全く気づいている様子のないおらふくんが、とうとうパスタを一口食べた。大きな口だなぁと思ったら、オリーブオイルが跳ねておらふくんの頬につく。
「あ、おらふくん」
「何?」
「ついてるよ、そこ」
「え、どこ?」
「ほら、ここ」
ティッシュでおらふくんの頬を拭う。ありがとう、おんりー、とおらふくんからの満面の笑み。こちらこそありがとう、なんてよく分からない返しも出来ずにまぁまぁと自分の気持ちを宥めるように言う。ティッシュ越しで触れちゃったよ、おらふくんの頬。
「おんりーは? 食べないの?」
「今から食べるよ」
俺は自分の皿にあるフォークを持ち上げた。人間の頬って結構柔らかいんだな。それともおらふくんの頬が柔らかいのかな。思考がグルグル、感情はぐちゃぐちゃだ。
「……ん、美味い」
なんとかパスタをフォークに絡めて味に意識を向ける。自分で作った中ではなかなかの良い出来だった。
「さすが、おんりーや!」
とおらふくんが褒めてくれている中、俺はパスタをフォークに絡めるように、思考も感情も口の奥へ放り込んだ。
おしまい