私が嫌いな私なんて○したっていいじゃないか(短編集)
第6章 キスの意味
「渚はさ、」
『?』
「武器として使ってたんだと思う。あの時」
不思議なものだ。そんな言葉、私自身が何度も言い聞かせるために言い放った事なのに…
他人に言われるとこんなにも腑に落ちる物なのか。
「ビッチ先生のDキスだって多分数回しか受けてないのに。学習したんだ。
烏丸先生も言ってたけどさ、そういう意味では
才能があるよな、あいつは」
『…そうですね』
表面では見えない、秘められたアサシンとしての才能。先生はずっとそれを育ててきた。そんな技術、殺し屋でもない私達が何に使うんだ、と思う所はあるが。先生の事だ、私達にはまだ分からない何かがあるんだろう
「って言っても、早稲田さんにとってはまだショックだろうけど…」
『……』
「渚の本音が知りたいなら、早稲田さんが直接聞けば一番効果あると思う」
『え?』
「ああ見えて意外と、というかかなり早稲田さんに対して必死なんだぜ?」
男子にしか分かり得ないことだけど。と付け足す
本音……か
聞きたいような聞きたくないような。
見上げた淡い空色はいつの間にか燃ゆる茜色に変わっていた
某日、今日の帰路の隣には渚さんがいた。珍しく一緒に帰った人数も少なかったのですぐに二人きりになれた。
電車を乗り換えて、時々手を繋いで指を絡める。
指…細い。
じんわりと感じる彼の体温を思う。自然と頬に熱が集まった
ふと横顔を見ると、彼は見つめて微笑んでくれる。
私は甘えることを知らぬまますぐに俯いてしまう。
きっとどんなに遠くにいても私を見つけ出してくれる、
潮田渚はそういう人だと思う。
けど、その幸せの隅で、
あの事をずっと思わなくちゃいけないのは嫌だな。
――
「え、甘える方法?
んー…渚は鈍感だからなぁ。普通にユーミンがしたいことを言えばいいんじゃない?そっちの方が率直に伝わるし嬉しいと思うよ」
――
『渚さん…』
「どうしたの?遊夢ちゃん」
『……
キスしてくれませんか?』