第6章 【Deep Forest】
「…ねぇ、れぇん。
ほら…前からあっためてた曲、あるじゃん?」
俺の家で廉とお互いに平行した時間を
まったり過ごして、気持ちよさそうに泳ぐ
髙橋水族館のみんなを眺めながら廉に声をかけると
ソファでハイボール片手に
「どれー?」と気の抜けた返事をする廉。
オレがメロディを口ずさむとそれに合わせて
「チルくてええよな~」とハミングしてくれて。
こういう廉との何気ない時間がオレにとっては
かけがえがなくて、大切にしたい時間だったりする。
「うん、そうそれ。その曲につける歌詞だけどさ。
どうしよっかねぇって前に話してたじゃん?
オレ…、書いてみてもいい?」
「…もちろん、えぇよ。俺、海人の歌詞好きやし。
海人がいま余裕あるんならむしろ
お願いしたいくらいよ。」
「……そっか、、うん。
頑張ってみるね。ありがとう!」
「何、なにー?
ライトリリックしたくなっちゃった感じ?笑」
「軽っ!w うん、まぁ…でも、そうだね 苦笑
あ、でも書くにあたって廉に相談が。」
「……なに?」
机の上に置いてあった写真集をパラパラと捲り
見せられたそのページには
氷で包まれた世界にいるひとりの人間が写っとって。
「……綺麗な写真やね」
「うん…。綺麗だよね…
綺麗だけど、、
ひとりだけ、この世界に取り残されたような
真空パックにして切り取られた…みたいな。
なんか、そういう淋しさがある気がする」
「…そうやね、」
「廉はそういうの、ある?
綺麗なまま…残しておきたい記憶。」
そう切り出した海人の表情は少しだけ、硬くて。
「オレは…あるよ。
オレね、あのときの気持ち書こうと思ってる」
“あのとき”がいつかなんて、
そんな確認、俺たちには必要なかった。
「……いいんやない?海人と一緒に頑張ってきて
自分たちの活動に自信持ててきた今やからこそ
俺も触れてみたい。そんときの気持ち…」
オレと廉は彷徨ってたんだ。
先が見えない深い森を
ふたりぼっちで。
誰にも言えずに苦しくて。
藻掻いて、足掻いて…
誰にも気付いてほしくないのに
誰かに気付いてほしくて
言えないことも、言わないことも
共有したオレたちにとって
お互いだけが
希望の光だったんだ…