第6章 人狼族との出会い(前編)
突然目の前に飛んできたので驚くが、
その人が頭や頬を怪我してるのを
見つけて放おっておけるはずも
なく駆け寄る。
フォルトより大柄で短髪で
目は鋭く恐そうで普段なら
近寄りがたい印象ではあるが
怪我した人はルシアリアにとって
等しく患者である。
「大丈夫ですか!?」
「痛ってて、あいつ思いっきり
殴りやがって…」
酒場の扉を壊して外に吹っ飛ばされた
男は体を起こし殴られた頬を擦る。
「今治しますね」
「ん?」
男は自分の視覚外から声が聞こえて
下を見る。
すると男に合わせてしゃがんでいた
ルシアリアが魔法で傷を治す。
男は何をされたかわからなかったが、
光と共に痛みが引いて傷が治った。
「傷が…」
「これでもう大丈夫!」
無事に治った事に安心してにっこり笑う。
「じゃあ、私はこれで。
怪我に気をつけてくださいね」
立ち去ろうとすると手首を掴まれて
引き止められる。
「俺はリヒター、俺の嫁になってくれ!」
その男、リヒターはルシアリアに
一目惚れし公衆の面前で唐突に求婚した。
「…はい?」
突然の話についていけず呆然としていると
酒場からもう一人男が飛び出してきた。
「兄貴!何騒いでるんだ!」
リヒターの弟レクトだった。
言い争いになりカッとなって兄を
殴り飛ばした後、冷静になって
狼の耳が出てないか確認してから
酒場に酒代と修理費と迷惑代と
多めに払って外に出てきたのだ。
「レクト、嫁を見つけた!
これで次期頭首の座も安泰だろ!」
掴まれた手首をグッと持ち上げられ
レクトの前に出される。
レクトはリヒターより一回り小さいが
もちろんルシアリアより大きく
見上げる形になる。
「こんな女のどこがいいんだ!」
吠えるように怒鳴るレクトに
驚きながらも、ルシアリアはその頭に
狼の耳が出てきそうなのを
見つけてさらに驚く。