第16章 小さいな呼び声
「あなた何者なの?」
「私はルシアリア。治癒魔法が得意なの」
怖がらせないように笑顔で答える。
「ルシアリア、類稀なる人の子よ。傷を
治してくれた事、感謝します。私は
妖精女王のエスカテーラー。ここでの
偶然の出会いに感謝します」
怪我をしていた妖精が恭しく挨拶を
してくれた。
「私はフィア。並んで感謝申し上げます」
二人並んで頭を下げる。
「妖精女王様!?…どうして怪我を…」
「私達は森の奥に静かに過ごしていました。
しかし突如タランチュラの一族が襲って
きたのです。あやつらは妖精の羽根を
狙っており仲間が数人やられてしまいました」
「命からがら逃げて森の端まで
来ましたが、深手を負った
エスカテーラー様をこれ以上連れて
行けずにいるところをあなたに
助けられました」
「タランチュラの一族…」
簡単に言えば大きな蜘蛛の魔物である。
本当ならドラク村より東にある魔族領に
生息しているはずなのだが、突如現れ
数人が捕らわれ羽根を毟り取られたと
いう事だった。
「その中に普通のタランチュラとは明らかに
異質の存在が一匹いて他のタランチュラを
従えていたように見えました」
「異質?」
「巨大なタランチュラの体の上に
人間のような上半身がくってついていました。
あんな魔物は見た事がありません」
顔色を悪くし本当に怯えたような顔で
説明してくれる。
そこに上から声が聞こえてきた。
「そりゃあ、俺の事かい?」
男にしては甲高い声が響く。
ハッとして上を見上げるとルシアリアの
後ろにある大きな木の上に今話していた
異質のタランチュラがニヤニヤ笑った
顔をして木にへばりついていた。
ルシアリアが想像してたよりだいぶ
大きい。足の先まで入れれば3mは
ある巨大な蜘蛛に成人男性の上半身が
一体となっている。
ルシアリアは腕を広げ背中に妖精二人を隠す。
「もう妖精には用はないよ。羽根は手に
入れられたからなぁ」
異質なタランチュラの手には妖精から
毟り取った綺麗な羽根が握られていた。
「くっ…!」
ルシアリアの後ろでエスカテーラーと
フィアが悔しそうに顔を歪める。
「俺が今探してたのは人間の女だよぉ!」