第6章 陸
放たれた精は、障子越しに彼女の飛沫と重なった。薄い紙の裏と表とで確かに交わったそれを見ると、まるでその女性と情を交わしたような気になった。その錯覚は、俺自身を再び熱く滾らせた。俺の手は止まらなかった。
ふと見ると、ぐったりした彼女に背を向けて、父も自らを慰めているようだった。
脱力している彼女の姿も美しかった。ややあって、その彼女が甘えるように父の背にしがみついている様子が解った。
しかしそこにいる彼女を振り返りもせず、ひたすら右手を動かして自らを慰めている父は、ただの見窄らしい中年にしか見えなかった。
不意に彼女が父の前に回り込んだ。父のそこに顔を寄せている。
__まさか。
父の声と様子から、精を放ったのであろうことが解った。それも彼女の口に、だ。
それに気付いた瞬間、俺も再び精を放っていた。それは突然の射精であった。
思わぬ吐精で障子を汚しながら、心の底でこんな障子など破れて仕舞えば良いと思った。この精が烈しく障子を破り、彼女に俺が今ここでこのようにして見ているということを認識させたいとさえ思った。
そんなことが出来る訳はなかった。
俺の精は障子戸に散って、ぴちゃっ、と小さく惨めたらしい音を立てただけだった。
その時父がまた俺の方を向き、微かに口元を緩めたのが見えた。
そういえば、彼女がそれを吐き出す仕草が見えない。まさか、飲精をしたというのか。あんな美しく控えめそうな女性が。
俺は障子戸に散った自らの白濁を横目で見ながら、だらしなくも自身を握り続けていた。
散り切れなかった精が自身から垂れ落ち、俺に不快感を与えた。