第1章 壱
その女性のことを、俺はあまり知らなかった。
時折父と共に縁側で酒を飲んでいる人、という程度の認識であった。
その女性がどのような人で、どのように父と出会い、何故我が家で酒を飲むようになったのかなどの経緯を父から聞いたこともなかった。
その女性を見た時、その姿形が亡くなった母に非常によく似ている女性だと思った。唯一違うのは、母は誰の目から見ても清廉な女性であったが、その女性は清廉さの中に底知れぬ淫靡さを持っているという所だった。少なくとも俺にはそう見えた。
父とその女性が、縁側で酒を飲むだけの関係なのか、それ以上の関係であるかも知らなかった。