第16章 商売をするなら……
そんな事を考えてたら、急に後ろから凄いでかい声で呼ばれた。
振り返るまでもない、アズールだ。
いや今まで何をやってたんだよほんと。
仮にもここの責任者なら、責任者としての意識を強く持てよな。
「記子さん! これは一体どういう事ですか!」
「それはこちらのセリフなんですけど、私は一体いつまで料理とドリンクを待てばいいんでしょうか。
それと、新人の指導係の二人はどこに行ったんですか?
貴方達の店は客に新人教育をさせるんですか、随分と強気なお店ですね」
興奮しているのか、私の話は一切聞かず、アズールはつかつかと私に近付くと急に手を握ってきた。
「素晴らしい……素晴らしすぎますよ記子さん!
本当に貴女はことごとく僕の計画を狂わせてくれますね!」
「……はい?」
「いや、今はもうどうだっていい……記子さん! 是非常勤スタッフになってください、もちろん対価は支払いますので!」
何があったのかは知らないけど、正気を失っている今なら好都合だね。
敢えて笑顔を作り、私はアズールの手を握り返して言った。
「もちろん喜んで協力させていただきます。アズール先輩をお助けしたいので、是非」
「っ……ではっ!」
「ただ、役立たずの従業員達に囲まれながらですと、スムーズに手伝えません。
なので、私の労力を引き換えに彼らを解放していただけませんか?」
私からの提案に、アズールは目を見開いて固まった。
それはそうだ、今私はとんでもない事を言っているのだから。
だが、ここで引き下がりはしないよ。
交渉は得意な方なんでね。
「役立たずは役に立つものの妨げになってしまいますし、時間や労力は有効活用してこそ儲けに繋がるものです。
アズール先輩が積み重ねてこられた努力に報えるよう、全力でお手伝いさせていただきたいので、そのためにも解放しては頂けないでしょうか」
相手の心境に寄り添いながら、判断を揺さぶっていく。
ただ、これだけだと、アズール側のメリットが少ないだろうから、ここで最後の切り札を出すとしよう。
イソギンチャク生達を完全に庇いたいわけじゃないからね。
こいつらにもきちんと反省してもらうよ?