第9章 イデア氏とヴィルさんは……
「ちょっとアンタ、いい素材持ってるわね」
そこらへんの底辺男からのナンパとは、比べるまでもないくらいに美しい言葉。
でも待って、私絶対ジャガイモであると思うんだけど。
「え、私ですか?」
「他に誰がいるのよ、ちょっとアタシに付き合いなさい」
あ、これイモ洗いされる?
ヴィルさん直々にされるとか、憧れでしかないんだけど、幸せ。
「普段のスキンケアはある程度しているみたいね。そこらのジャガイモとは大違いだわ」
「一応一通りは……こっちに来てからは何もできてないというか、異世界から来たこともあって何も持ってないんですけど」
「なら、アタシのをあげるわ」
次々と高そうな化粧品を渡されていくんだけど、私お金払えないよ?
バイトでもしようかな……するとしたらモストロ・ラウンジかな?
「またなくなったらあげるわ、もっと磨きなさい」
「あ、はい。えっと……」
「ヴィルよ、ヴィル・シェーンハイト」
「ご丁寧にありがとうございます、ヴィル先輩。私は記子と申します」
「知ってるわ、入学式の時からずっとアンタと話したいと思っていたんだから」
え、そんな前から私のことを認識してくれてたの?
光栄すぎるんですけど、あのヴィルさんにだよ?
「ヴィル先輩って、やっぱりただ美しいだけじゃないですね」
「あら、どういう意味かしら?」
「努力を重ねている人だけが魅せられる、そんな美しさを持っているんだなって思ったんです。
自分の魅力を最大限に出せる方法を常に模索して、研究して、実践する……時間をかけて確実に自分のものにしていくからこそ、その美しさが現れるんだろうなって」
だから、どうか比較をしないでほしい。
唯一無二のものは、みんなそれぞれ持っているものであって、比べるものではないのだから。
「……ありがとう」
「ごめんなさい、先輩に対して生意気なことを言いました」
「……決めたわ、アンタをアタシだけのものにするわ。覚悟してなさい」
「え?」