第9章 イデア氏とヴィルさんは……
人がせっかく幸せな気分に浸っていたっていうのに、本当にあのカラスは何なの?
私はあんたの秘書でも雑用係でもないんだけど。
「物は大事にしない、学生は雑に扱う……教育者の鏡ですね、逆の意味で」
「うっ……」
「忙しいという心底くだらない言い訳はいいので、さっさと要件を言ってください」
案の定、内容はイグニハイド寮の寮長であるイデアさんに書類を届けてほしいという、今こうしている間にもさっと出来そうなものだった。
というかさ、電子化してやれよ。
まあ不本意ではあるけど、引き受けたからには持っていくしかないよね。
「寮に来たのはいいけど、部屋ってどこだろう」
野性の勘ではこの辺りなんだけど、急に行くと失礼だよね。
こういう時にオルトくんがいてくれると助かるんだけどな。
「あれ、貴女は記子さんだよね?」
フラグ回収の神よ、ありがとう。
普段は全くと言っていいほど役に立たないというのに、極まれに役に立つじゃん。
「初めまして、学園長に頼まれ書類をイデア先輩に届けに来ました。イデア先輩はどちらにいらっしゃいますでしょうか?」
「兄さんなら部屋にいるよ、こっち!」
「案内していただきありがとうございます、えっと……」
「僕はオルト・シュラルドだよ、よろしくね!」
「よろしくお願いします、オルト先輩」
見た目は小さくとも、先輩だからね。
こういうの、学生って感じがしていいな。