第23章 ゼレフ「約束」
そんな表情を読み取ってかゼレフは微笑んだ。
「ごめんね…。でも、僕は君を傷つけたくない。今のままだと僕は…皆を不幸にする」
遠く離れた位置から私を見つめる彼。
確かにそうだろうけどこのまま離れたくない。
「……やだ」
「…僕も嫌だ。カナタがこの世界から居なくなるなんてあってはいけないことだ。ましてや僕のせいでなんて。……あの時だって、怖かったんだ」
困ったような口調に自然と涙が溢れ出す。
私だって死にたい訳じゃない。
でもアクエリアスと話して気づいたから。
「何で、ゼレフがこんな目に遭わなきゃいけないの……。ゼレフはこれからずっと1人で生きていくの…?」
私の問いに彼は少し考えた様な素振りを見せてからゆっくり頷いた。
「そう…、だね。僕は最初から誰とも話したことがなかった。そう思って生きていくことにするよ」
きっと彼のことだから笑顔なんだろう。
しかしその言葉は私を、プルを忘れてしまっても良いって言っているようで悲しかった。
何も言えなくなって下を向く。
「…だから君は泣かないで」
ゼレフの小さな声が聞こえる。
彼の声が心做しか少し震えていた。
あんなにも遠く離れたというのに私の周りの木々がまだ塵になろうとしている。
黒い波がじわじわと私の方へ押し寄せてくる。
「っ、カナタ。もう僕を追わないって約束して。見て分かるでしょ。僕には抑えられないから…!」
頭を抱え出す彼に私は困惑してしまう。
本当ならすぐに掛け寄れるはずなのに。
言葉が出なくてただ泣くだけしかできない。
「…プルと仲良くね」
泣きじゃくる私を見た彼は持っていた荷物を肩にかけてゆっくりと後ろに下がって行く。
もう会えなくなるのなら今更私からの一方的な気持ちなんて言わなくていい。
そう思って精一杯プルの、仔犬座の鍵を上に掲げて手を振る。
ゼレフはこっちを1度だけ振り返って笑った。
「…約束、なんて調子のいい話だよね。僕は未来を見に行くって約束守れないのに。……今度こそ一緒に居たかったのに」
なにかを呟いて走り去っていく彼を私は見送ることしかできなかった。
---𝑒𝑛𝑑----------