第12章 𑁍蒼色マリアージュ《蜜愛編》/ 伊達政宗
『……嫌なのかよ』
『嫌じゃないけど、だって』
『だって?』
『っ……』
あの時、結衣は酷く驚いていた。
何に驚いていたのか。
多分……嫉妬に歪んだ俺の顔だろう。
そんなに酷い顔だったか?
少なくとも格好いい顔ではなかったはずだ。
無様だろ?
でも……俺だって嫉妬するんだよ。
お前にだけ、お前だから。
────そのくらい、愛してるんだよ
「凛……何やってんだ?」
妖しげに行灯が揺らめく、茶屋の一室。
何やら甘い香の匂いが漂う中……
畳に仰向けで寝転がる俺に、凛が覆いかぶさって場に似合わない屈託のない笑みを浮かべていた。
「やっぱりこーゆう場所に来たからには、やる事やっとかないとなーって」
「今日は、はなからそういう話じゃねぇだろ」
「知ってますよー!結衣様にヤキモチ妬かせよう大作戦ですよね?」
「いつの間にそんな作戦名になったんだ?」
真面目な顔をして人差し指を立てる凛に、下から見上げて思わず苦笑してしまった。
そう、この『いかがわしい茶屋』に女と入るところを結衣に目撃させて、少しばかり嫉妬してもらおうというのが今日の狙いだ。
凛は俺が安土に来てからの知り合いで。
正直言って『アホの子』だが、美人で頭が良く空気も読める。
だから、うってつけだと思い話を持ちかけた。
凛はすんなり了承してくれ、こうして今日ここへ一緒に入ってくれた訳だ。
つまり『入る』のが目的で『入ってから』のことは、何も考えていなかった。
実際、結衣が俺達を遠くから見ていたのは確認してる。
もう目標は達成された訳だから、もうやる事もないんだけどな。
(さて、これからどうするか……)
思案している俺の上で、凛はいそいそと着物の前をはだけさせ始めている。
正直、結衣以外抱く気は全く起きないので、俺はそれをやんわり止めさせた。
「凛、降りろ。お前を抱く気はない」
「政宗様、つまんないー!」
「つまらなくて結構、結衣以外は女を感じないんだよ」
「むー、本当に政宗様守りが堅くなった!」
凛は頬を膨らませながら、身を起こす。
一緒に体を起こした俺の前にペタンと座ると……
俺の顔を覗き込みながら、眉をへの字にした。