第10章 初愛の君に終焉の愛を誓う / 豊臣秀吉
『うーん、特に気にならないな。
お前はずっと傍に居てくれるだろ?』
秀吉さんは、穏やかに笑いながらそう言った。
私は正直……複雑だった。
私と秀吉さんは恋仲になって、
今私だけが見られる彼の姿は……
一体過去に、何人の女の人が見てきたのだろうか。
秀吉さんは昔、
何人に甘い声で囁いて、
何人の髪を整えてあげて、
何人の前で…『男』の姿になったのだろう。
気にする私は子どもなのかな。
気にならないと言った秀吉さんは、
やっぱり大人なのかな。
モヤモヤする、ヤキモチなんて
妬きたくないのに────…………
***
(あれ、あそこに居るのは……)
私が城下を歩いていると、少し離れた露店の前でいつも見慣れた二人の姿を見つけた。
珍しいなと思いながら近づくと……
向こうも気づいたらしく、片手を上げて応えてくれた。
「よお、結衣」
「政宗、家康。こんな所でどうしたの?」
「政宗さんの気まぐれに付き合わされてる」
「あはは、そっかあ」
私が笑みを浮かべて言うと、何故か政宗と家康は顔を見合わせる。
そして、すぐに政宗が私の顔を覗き込んできた。
突然顔が近くなったため、その綺麗な青い瞳に私が映っていて……
変に心臓がドキリと鳴った。
「どうした、元気ねぇな」
「そ、そんな事……ない、よ?」
「あんた、それで隠してるつもり?バレバレなんだけど」
「……」
(あっさり気づかれちゃった……)
そんなに私って顔に出やすいのかな。
確かに『今朝』のことは引きづっているけど……
若干しゅんとなって俯けば、手が伸びてきて頭を優しく撫でられる。
政宗の手だったが、それを見た家康が小さくため息をついて手を離させた。
「近すぎ、秀吉さんに怒られますよ」
「どうせその秀吉が原因だろ、こいつがこんな顔するなんざ」
「結衣、そうなの?」
「……ええと……うん」
素直に『落ち込んでる』と認めてしまえば、妙に気持ちが落ち着いた気がする。
今私がこうして気持ちが沈んでいるのは、今朝の出来事が原因だった。
多分聞く人が聞いたら些細なことかもしれない。
でも……
私にとっては、それが割とショッキングだったんだ。