第5章 愛い花 / 徳川家康
「解ったでしょ、あんたがどれだけ可愛いか」
「うー……こんなの反則だよ」
「機嫌、直った?」
「……直った、ごめん……家康。今日はせっかくの記念日なのに」
「なら特別なこと、する?」
俺は結衣の耳元にそっと唇を近づけ。
まるで誘惑するような甘い言葉を注いだ。
「例えば……子作り、とか」
「っ……ひゃっ!」
ひょいっと結衣を横抱きにして、そのままふわりと地面に下ろす。
覆い被さるように結衣を閉じ込めれば、花々の間から真っ赤な顔をして見上げる結衣がいた。
(あー可愛い、このまま可愛がりたくなる)
むくむくと欲が顔を見せ始めるが、さすがにこんな場所では大切な結衣を抱けない。
俺は意地悪く笑って、ちゅっと鼻先を啄む。
結衣はまた口をへの字にして、俺の肩辺りを掴んだ。
「もー、家康の意地悪」
「冗談でもないよ、ここではしないけど」
「当たり前だよっ!」
「帰ったらしたいって意味は通じてる?」
「っ……それ以上は恥ずかしいから言わないで!」
「ぷっ……可愛い」
引き寄せられるように唇が重なったら、少しだけ強い風が凪いだ。
花びらが舞い上がり、まるで花吹雪のようにはらりはらりと踊って見える。
愛しいあんたを腕に抱いた時。
もう最上の幸せだと思ったけれど、
幸福は際限がないのだとあんたは教えてくれた。
これからも幸せになろう。
幸せにして、幸せにされて、
たくさん喧嘩もしながら一緒に生きていく。
─────今までありがとう
これからもずっとずっと、そばに居て
愛してると伝えたら、眩暈が起きた。
満ち足りた光が降り注ぎ……
俺達の道標を明るく照らしていたのだった。
了