第5章 愛い花 / 徳川家康
─────結衣と喧嘩をした
今日は記念日、祝言を挙げてから十年目。
子宝にも恵まれ、これ以上ない幸せな毎日だ。
だが……昨日の夜、結衣を怒らせた。
きっかけはたわいない事だった。
せっかくの節目の記念日であったのに……
俺は今日、結衣と一言も口をきいていない。
正直……かなりしんどいんだけど。
***
「とう様、今日へんだね」
「かあ様とけんかしたんだって」
「だから今日、かあ様ぷりぷりしてるんだ」
「とう様はぼーっとしてるね」
「してるねー」
縁側に居れば、双子の娘達の会話が聞こえてくる。
齢五才の姫達は、結衣に似て素直である。
だから思ったことは、すぐに口に出す。
……そんなに俺はぼーっとしているだろうか。
「伊織、詩織、うるさいよ」
「やー、とう様こわいー!」
「かあ様のとこにいこ、しおちゃん」
「あー、いおちゃん待ってー」
少し言えば、娘達はわーわー言いながら廊下を走って行った。
怖いときたか……そのうち娘も反抗期が来るんだろう、その時にさらに嫌われそうな気がするな。
俺は小さくため息をついて、空を見上げる。
真っ青な空に、雲が薄くたなびいていて……
十年前の祝言の日もこんな晴天だったなと思い出した。
『一生幸せにする、無敵の二人になろう』
一本の道を一緒に歩く事を決めた俺達。
たくさんの人に祝福され、夫婦になって……
結衣を一生幸せにすると誓った俺は、逆に幸せにしてもらっているといつも思っていた。
どう考えても、結衣がくれる幸せの方が与えている幸せより大きい。
可愛い娘達も産んでくれ、家族がひとつでいられるのも、結衣が居るからこそだ。
感謝はしてもしきれない、なのに……
そんな結衣を怒らせたのは俺だ。
「あーあ……どうしよう」
「とう様〜〜〜!」
「っ!」
急に後ろから抱きつかれ、振り返ってみれば結衣の所に行ったと思われた娘達がいた。
俺が怖いから母様の所に行ったんじゃなかったのか?