第1章 誘う一線、捕まった花心 / 豊臣秀吉
今日は秀吉さんのお誕生日。
人気者の秀吉さんだから、当日は色んな人に引っ張りだこだと思っていたけれど……
私は運良く秀吉さんとの逢瀬を約束する事ができた。
今はその真っ最中で、市を見たりお茶屋さんでお団子を食べたり、楽しい楽しい逢瀬を過ごしている。
(でも、本題はそれじゃない)
私は秀吉さんにずっと片思いをしている。
できれば妹ではなく、女として見られたい。
だから……今日こそは頑張って秀吉さんを"誘って"みようと思うんだ。
誘うとは何かと言うと…それはもちろん。
***
「ねえ、秀吉さん。この後私の部屋でお茶でもどうかな」
夕方になり、そろそろ逢瀬もお開きか……というところで、私は秀吉さんを見上げてそう言った。
今夜はお祝いの宴があるけれど、それまではまだ時間があるから、少しくらいゆっくりする時間はある筈だ。
すると秀吉さんは少し考えるように黙った後、いつものように朗らかに笑ってみせた。
「そうだな、お邪魔させてもらうか」
(よしっ、第一関門突破!)
心の中で思わずぐっとコブシを握る。
まずは部屋に入って二人きりにならなくては話にならない。
私は秀吉さんを自室に招き入れると、秀吉さんにお茶を勧め、二人だけの小さなお茶会が始まった。
秀吉さんは湯のみに口を付けた後、タレ目の目尻を下げて、優しそうに笑む。
「ん、美味いな。お前の淹れてくれた茶は絶品だ」
「あはは、大袈裟だよ」
「今日は楽しかったな、また出かけような」
「うん、今日はありがとう!秀吉さん、お誕生日おめでとうだね」
「ありがとな」
すると、秀吉さんは片手で私の頭を優しく撫でた。
その無骨な指は私の髪を軽く梳き、自然の流れで離れていく。
それにもの寂しさを覚え、私は少し俯いた。
(ここからが本番。帰らないでって言うんだ……)
秀吉さんに女として見られたい。
部屋に招いたのは『そういう』意味なのだと、察して欲しい。
秀吉さんはお茶を飲み終わったらすぐに帰るだろう、だから……
『帰らないで、そばに居て』と女っぽく言ったら秀吉さんも少しは意識してくれるだろうか。
秀吉さんがカタンと湯呑みを置いた音がした。
帰ってしまうと思い、私は俯いた顔を上げた。