第6章 眠れる森の美女…103年後
戴冠式から続き、『あの夜』から少し経った。
元の寝室から少し離れた、石造りの、粗末で冷たい小部屋は姫の身分にはそぐわないもの。
ただそれには理由があった。
彼女は壁にもたれて座り、割れた櫛を手に、絵柄をじっと観察していた。
よく見ると分かる。
花枝を囲うように翔んでいるのは鳥だと。
王子様からの初めての贈り物だった。
贈ってくれたものは、彼にとっては、適当に選んだものだったのだろうか?
(弟王子様でさえ、一目見て分かったのに)
姫は悩んでいた。
彼は自分が思い描いていた王子様ではないと気付いてしまったからだ。
まずあの晩に、自分が泣いていた理由。
それは大半は恐れからだったと思う。
『俺が怒るとでも?』
当然怒られるのだと思っていた。
王子…今は王のあの人は本来、気の荒い人だ。
お城の人たちが彼を見る目。
それが自分の心情と似ていることに姫はある時気付いた。
意に沿わないことは許さない。
姫は彼に手を上げられた事はなかったが、『そうされそうな予兆』を本能で感じていて、恐れた。
そして王は威嚇する。
乱暴にドアを閉める音で、
わざとゆっくり訊き返す声で、
大げさなため息で。
事実。
人目のある所で姫があからさまに彼を避けてしまったせいで、機嫌を損ねた彼にここに閉じ込められていたのだった。
何でも今、ここに続く城壁を建築中だとか。
姫が大きな窓から外の様子を伺った。
真下に作りかけの階段が途中で途切れている。
季節の変わり目の冷たい風に身を震わせた。
『きみはどうも妃となる自覚が足りないようだね。 結婚式にはまだ間がある。 ここで二、三日、頭を冷やすといい』
冷たく言い放った彼は外から鍵をかけ、無口な給仕の者が食事を運んでくる以外、姫は誰にも会えなかった。