第8章 ラプンツェル…少女の物語♥♥
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それからしばらく経ったある晴れた日。
マドカは洞の中からそっと外を覗いた。
手を伸ばして内側へ垂れた紐を引く。
木の枝と傾斜を利用し、外に掛けてあった容器には水が溜まっていた。
なるべく雨を避け、葉や花を通り過ぎた水は微かに爽やかな香りがした。
そこに布を浸し、きつく絞る。
衣服を脱いで体を拭き始めた。
「マドカちゃん、梯子なんか掛けっぱなしにしといたらダメじゃないか」
来たなりに文句を言われる筋合いはない。
むっとしてマドカが言い返した。
「私が掛けたんじゃないし、外したくても私は」
と、毎度洞の中を無遠慮に覗き込むプリンが妙な顔をしているのを不思議に思った。
「………目立たないとこに移しといたから」
上衣を着たマドカは前を手前の紐で結んだ。
「ありがと。 最近、お役人の仕事が忙しいの?」
「そうだね」
「?」
何となく煮え切らない返事。
加えて出入り口に座り黙り込むフリンだった。
ややたって彼が口を開く。
軽めの声のトーンで、だけどいやに低く響く音で。
「………マドカちゃん。 もしも僕がいなくなっても………いなくなったら、きみはここを出てくれる?」
「は? 何を………急に」
「きみはきみを大切にしてくれる男を見付けるべきだ。 ここに居てはダメだ」
彼女を見もせずにそんなことを言うフリンに、マドカが思わず声を荒げてしまう。
「もう、なんなのよ、こないだからああしろこうしろって。 放っておいてよ!」
あからさまに彼に背を向けたマドカは腹が立っていた。