第1章 微笑―月下の君―
同時にこの少女に好き勝手させておくと、誰か判別できない程ボコボコにされるかもしれないという危惧が首をもたげた。
当初の仕事は早めにこなした方がいい。
そう考え、腹から武器庫呪霊を吐き出す。
するとすぐに呪霊は格納していた自らの体を伸ばし始め、すぐに甚爾の肩に巻きついた。
そして口から出てくる呪具に手を掛けると同時に蹴り飛ばされた主人が伸びている部屋の奥まで一足跳びに移動し、呪具で眉間をひと突き。
当然呻き声ひとつ上げずに絶命、後は証拠として遺体を持ち帰れば完了だ。
武器庫呪霊に遺体を飲み込ませようとして、ふと少女に目をやる。
目にも止まらぬ状況に全くついていけてなかった少女はあんぐりと口を開けて呆然としていた。
「マヌケ面だな」
「ちょ、殺したの……?なんで!?」
「俺の狙いはコッチの男だっつったろ」
「さ、殺害目的だったってこと!?」
「見て分かんねぇか?」
少女は口を噤んで生唾を飲む。
やっと自分の目の前にいる人間が殺し屋であることに気づいたらしい。
「最初はオマエも殺そうかと思ってたんだが、五条の人間なら話は別だ。殺すと後が面倒くせぇ」
「私のことは生かして帰してくれるってこと?」
「まずはここを出るとこからだな」
タダで帰す気はサラサラ無いが。
本心はおくびにも出さず、武器庫呪霊が遺体に寄っていくのを眺めていると、
「それ呪霊よね?飲み込んでたの!?」
「まぁそんなとこだ」
「!?」
またも驚愕して固まった少女。
甚爾はそれを無視して武器庫呪霊に遺体を飲み込ませる。
呪霊が遺体を丸ごと飲み込み、次は最初吐き出した時と同じようにサイズを落とさせた。
それを口に運ぶと再び少女が騒ぎ出す。
「そ、そんなの食べたらお腹壊すどころじゃないでしょ!?」
いい加減煩わしい。
「……ガキ、ちったぁ静かにできねぇのか?」
ギロリと睨むと少女は押し黙る。
だが甚爾の威圧に屈した訳でもなかった。
「……じゃないわよ」
「あ?」
「ガキじゃないわ、五条伽那夛よ!」
「そうかよ」
こりゃ黙らせるの自体が面倒そうだ。
会話を打ち切って真っ直ぐ階段に向かって歩き出す。
すると伽那夛も慌ててついてきた。