第5章 非日常にさようなら
それから刺客に追いかけられて、それを全部蹴散らして、
……結局彼は宣言通り手伝わなかったけれど、もし刺客を殺していてもスカッとするのはその瞬間だけで後はうんざりすることや他人の言葉を全部受け止め過ぎだと教えてもらった。
そして今まですごく気にしていたことを“くだらない”と一蹴もされた。
自分のことをどうとも思ってない人間から何を言われようが流しておけばいいのだと。
悔しかったけれど、言い返せなかった。
そこから休憩がてら連れていかれたのは競馬場。
おめかししている馬が多くてそれを言ったら噛み癖や蹴り癖を知らせるための飾りだと言われて驚いた。
……彼の賭博に対する運が壊滅的なことには驚きを通り越して呆れた。
そしてその競馬場で仲介人である孔から本人確認のための質問を受けた後、トイレに行ったら当たり屋にぶつかられた挙句、難癖をつけられたところを助けられた。
まぁ、あれは自分1人でも何とかできたけれども。
あの後飲んだレモネードは格別に美味しかった。
それからなんと言ってもコンビニ!
あれは凄かった。
狭いはずの店内にいろんな種類のお菓子、飲み物、パンやお弁当が並び、扱っている商品の種類が多い。
ちょっと窓際に置くのはどうかと思う雑誌もあったが、それは置いておいて、想像できない味のアイスもあって衝撃的だった。
それを話したら笑われたけども……!
決して楽しいことばかりではなかったが、初めて見るもの、感じるものばかりで思い返せばとても面白かった。
……そうだ、まだ自分はこの感謝を伝えていない。
たとえどうでもいいと思われてもいい。
でももう会えないのなら尚更、この感謝だけは伝えたい。
伝えなければ自分の気が済まない。
衝動に駆られ、伽那夛は弾かれたように走り出した。
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甚爾がレストランを出ると、パタパタと軽い足音が追いかけてきた。
「ねぇ!」
呼び止める声に振り向くと、伽那夛が手を振っている。
「ありがとね!見聞を広められたし、いい気分転換になったわ」
感謝の言葉なんてものにやりがいを感じることは今までもこれからもないだろうが、その笑顔には確かな眩しさがある。
それは絵画の中の微笑よりもよほど良い笑顔だった。
―了―