第6章 後日譚
何の因果か、五条伽那夛の護衛なんて仕事をしてから数ヶ月、たまに来た殺しの仕事をこなす日々の合間に甚爾は競艇に興じていた。
しかし相変わらず運は味方せず全敗だ。
そろそろ切り上げて飯でも食いに行くかと立ち上がろうとした時、甚爾の耳が聞き覚えのある足音を拾った。
足音の主は軽いのに足先だけ重たそうな特徴的な音だ。
それはもう聞くことはないとばかり思っていたもの。
まさか、な。
だが、足音はどんどんこっちへ向かってくる。
ある程度近づくと覚えのある匂いまでしてきて、ただの偶然ではないことを否応なく突きつけてきた。
「やっぱりいた、やっと見つけたわ」
「……何でいんの?」
縁というのは思いの外切れにくいものらしい。
背後からかかった声にゆっくりと振り向くと、そこには久方ぶりに見る五条伽那夛が立っていた。
「ここ2ヶ月くらい関東圏の競馬場、競艇場、競輪場をくまなく探したのよ。大変だったんだから」
どこか得意げな顔の彼女は前見た時より背が伸び、多少子供っぽさが抜けてきている印象だが、口も性格も全然変わっていない。
そして何でもない風に立っているが、ここは競艇場、未成年が1人で入ろうとしても入口ゲートで止められるし、いくら伽那夛が実年齢より年上に見えるといっても20歳以上と言い張るにはまだ無理がある。
「そういう意味じゃねぇよ。未成年だろ、どうやって入った?」
「知らないおじ様にお願いして家族のフリしてもらった」
「そのオジサマはどうしたよ?」
見返りに何を要求されたのかは大体想像がつくが、彼女の表情からすると何もされてないのだろう。
いや、伽那夛が何もさせなかったという方が正しいか。
「多目的トイレに蹴り込んで寝てもらってる……ってそんなことより!」
伽那夛は甚爾の座る席の背に手を掛けて身を乗り出してきた。
上から覗き込むような形になり、彼女の長い黒髪が甚爾の肩に触れ、その利発そうな黒い瞳と目が合う。
そして形の良い唇から紡がれた言葉は、
「あなたに頼みたいことがあるんだけど?」