第5章 非日常にさようなら
自己満足のために迎えの者達に礼を言わせようとしているのかと問われ、伽那夛は咄嗟に否定できなかった。
甚爾は彼らからどう思われようが、何を言われようがどうでもいい。
彼らも甚爾に礼を言う気はない。
心にもない感謝なんてきっとお互いに不要だ。
それを無理やり言わせようとしているのは何故なのか?
確かに多少なりとも伽那夛の自己満足が含まれており、そう言われても仕方ないという気がしてしまう。
でも、
でも……!
それだけではない思いがあるのだ。
きっとそれは甚爾にも伝わっている。
けれどその上で彼らの感謝は嬉しくないと言っている。
行き場なく燻る怒りをどうすることもできず、伽那夛は俯いて拳を握りしめる。
「じゃあな、もう会うこともねぇだろうよ」
ポンポンと頭を撫でられてハッと顔を上げると、甚爾は既に個室の出口にいた。
五条伽那夛を送り届けるという甚爾の仕事はもう終わり。
殺し屋に戻るのだ。
彼の言う通りきっともう二度と会うことはない。
……追いかけても何にもならない。
伽那夛はお別れを言えなかったが、それを気にする彼でもないだろう。
少し寂しいような心持ちで大きな背中が見えなくなるのを見送ると、途端に今日の短いながらも密度の濃い思い出が蘇ってきた。
洋館の絵画の呪骸に捕まったところを助けられた、と思ったら頑張れとだけ言われて呪骸の相手をさせられた。
その後、初めてラーメンという料理を食べて……って食べる前に割り箸に悪戦苦闘したのだった。
スープを吸って伸びてしまったラーメンは意外にも美味しかったのを覚えている。