第5章 非日常にさようなら
無論、彼らを責めても筋違い、根本的な解決にはならないと頭のどこかでは分かっている。
だが、自分も将来そうならざるを得ないのかと考えると怒りを向けることを止められなかった。
彼らに掴みかからんばかりの形相で近づこうとしたその時、頭に大きな手が乗ってきた。
「やめとけ。言ったろ?どうとも思ってねぇ奴らがどう見てこようが俺は何とも思わねぇよ」
これは嘘偽りのない甚爾の本心だった。
別に感謝があってもなくてもどうでもいい。
それが彼らのような術師であれば尚更。
振り向いた伽那夛と目が合った。
彼女の怒りはまだ燻っていることがその表情から分かる。
「でも、それじゃああなたは……!」
「ならこう言えば分かるか?ソイツらに礼を言われても俺は嬉しくも何ともねぇ。どこにも届かない言葉を言わせてオマエは満足か?」
「……っ」
自己満足かと問われ、伽那夛は俯く。
つくづく術師に似つかわしくない娘だと思う。
自分たちを虐げている呪術界の慣習を受け入れている彼らへの怒り、全てを諦めている甚爾への怒り、
そしてそれをどうにもできない自分への怒り
ここまで怒りを露わにするのはそれぞれを思いやっているからに他ならない。
伽那夛の境遇を聞いて自分と似ていると思っていたが、その実は全く違った。
宥めるようにポンポンと軽く彼女の頭を撫で、甚爾は部屋の出口へ向かう。
「じゃあな、もう会うこともねぇだろうよ」
オマエみたいな他人のために怒れる奴にこの世界は似合わない。