第5章 非日常にさようなら
「……今はそういう話じゃないわね。彼はあなた達がやるべき仕事を引き受けて、五条家の術師を1人救ったの。その事実に対して誠意があってしかるべきじゃないかしら?」
彼らは顔を見合わせるばかりで一向に口を開かない。
“ありがとう”なんて小さな子供でも言える言葉のはずなのに。
伽那夛の睨みにようやく1人が口を開いた。
「ですが、その男……術師ではありませんよね?」
「何よ、それ……!」
呪術師でなければ礼を言う筋合いもないとでも言いたげなその言葉に伽那夛の怒りが爆ぜた。
「“術師にあらずんば人にあらず”とでも言いたいの?御三家のそういう考え方、大嫌いよ!」
呪力も術式も個性だ。
それらの多寡や良し悪しを比較し、優劣をつけるから一族の中でも差別が絶えない。
もてはやされるのは呪力も豊富で良質な術式を持つひと握りの男だけ。
「人に何かしてもらったら感謝する、そんなこともできないなんて人としてどうかと思うわ!」
感謝の言葉が出ないのは甚爾のことを下に見ているからだ。
彼らだって五条家の中では立場が非常に低い。
その低い立場に追いやった差別風土を憎んでもおかしくないはずなのに、それが染みついてしまっている。
甘んじてその風土を受け入れていることも甚爾を人として扱わない態度も伽那夛の怒りに油を注ぐ。
「あなた達だって術式を持たないってだけで、上の部隊にこき使われて……自分ではどうしようもできないことで差別されるのは嫌でしょ!?まずは自分達のその差別意識を改めなさいよ!」
自ら変わろうとせずに長いものに巻かれて、抵抗する意思すら削がれて諦めて……