第1章 微笑―月下の君―
部屋を出た先には見知らぬ男が立っていた。
黒髪に鋭い切長の目、右の口元にある傷痕が特徴的な偉丈夫。
隠れもせず扉のすぐ前にいたというのに全然気配を感じなかった。
っ!、まだ追手がいたの!?
まずい状況だけど、それを悟られる訳にはいかない……!
「誰!?あなたも私を狙ってきたの!?こっちはいい迷惑なの!いい加減、悟本人を狙いなさいよね!!」
「違ぇけど……悟って誰だよ?」
五条悟のことを知らずに自分を狙ってくるなんて訳が分からなかったが、それならここから逃げ出せるかもしれない。
ただ名前を出してしまった手前、黙って横を通り過ぎるということは許してくれなさそうだ。
「五条悟よ!知らないの!?」
伽那夛が突っかかっても相手は動じない。
顎に手を当て考える仕草をした後、少し目を丸くして伽那夛を見る。
「……っつーことは、オマエ、五条の術師?」
「はあっ!?そんなことも知らずに私を攫いにきたの?」
「だから違うって、俺の狙いはソッチ」
指の動きにつられて示された先を見ると、館の主人は話している内にだいぶ近づいていた。
「キャーッ!寄・る・なーっ!!」
バキィッ
伽那夛の回し蹴りが主人の頬に炸裂して壁まで吹っ飛ぶ。
上半身の捻りも利用して細い脚をしならせるように繰り出された強烈な蹴りに男はヒュウと口笛を吹いた。
「なかなか良い蹴りすんじゃねぇか」