第5章 非日常にさようなら
その後は特に妨害も受けず、伽那夛の引き渡し場所に着いた。
とあるレストランだ。
ここにある個室が指定された引き渡し場所。
伽那夛にとっては長いような短いような1日だったが、これからは現実に戻る。
振り返ればなんだかんだ楽しい時間だったと思う。
つい戻りたくないと考えてしまう。
だがそこで駄々をこねる程、伽那夛は子供ではない。
甚爾に促されるまま車を降りて歩き出す。
未知のものに溢れていた非日常とはこれでお別れだ。
甚爾が伽那夛を連れ立って中に入ると、スタッフが待ち構えており、個室に通された。
しかし、そこにいるはずの五条家の人間はいない……というよりテーブルと椅子があるだけで誰もいなかった。
「……誰もいねぇな」
「3日後までに私を送るって約束なんでしょ、今慌てて呼んでるところじゃない?」
「今日の夕方には到着すると伝えてある……どこかで見てるな」
監視カメラが隠してあるか、あるいは術式で彼女が五条伽那夛本人か最終確認していると予想はつく。
疑り深い奴らだ。
伽那夛も口を尖らせて不満げにしている。
「何それ、感じ悪いわね」
「術師ってのは基本相手を疑うからな。どっちかといえばオマエみたいな奴の方が珍しい」
甚爾はそんなこと一言も言っていないのだが、なんだか危機感や警戒感がない、油断しがちと言われているような気がして、伽那夛は言い返した。
「私は今までのこと総合的に見てあなたを信用できると判断してるの。短絡的に判断したんじゃないわ」
「その姿勢がそもそも珍しいんだよ。普通はハナから信用しないし、それを曲げることもしない。自分の命を狙う可能性のある殺し屋って認識は覆らねぇ」