第5章 非日常にさようなら
ひとまず車に戻ろうと踵を返しかけたまさにその時―……
1ブロック先の路地から見覚えのある傷痕の男が歩いて出てきた。
伽那夛は思わず大声が出ていた。
「あ、いた!甚爾ーっ!」
大きく手を振ると見慣れた気怠げな顔がこちらを向く。
名前、聞いておいて良かった。
置いていかれた訳ではなかったという安心もあって、伽那夛は甚爾に駆け寄る。
「どこ行っちゃったかと思ったじゃない!」
「オマエ、車はどうしたんだよ?」
「?、どうもしてないわよ」
「車上荒らしし放題だな。盗られる物もねぇけど……」
ため息をついて頭を掻く甚爾に首を傾げる伽那夛。
「どういうこと?」
「車を置いていく時は鍵かけろって話だ。盗られる物はないが、何か仕掛けられてるかもしれねぇ」
「なっ、そういう大事なことは先に言ってよね!」
「オマエがおとなしく車で待ってりゃよかったんだよ」
「だ、だって……置いてかれたかと思ったから」
顔を俯けてモゴモゴとした小声だったが、甚爾にはしっかりと聞こえる。
「置いていくんならオマエを車から降ろしてるよ。徒歩で帰るのはさすがに怠いし」
「た、確かにおかしいとは思ったけど、どこにもいなかったから探してたの。でも、見つからないし……もう少しで1人で帰ろうかって考えてたんだからね」
「はいはい、黙っていなくなって悪かったな」
投げやりな謝罪にむくれる伽那夛だったが、自分も寝ていたのでこれ以上文句は言えず、素直に甚爾の後をついていった。
車まで戻ると、甚爾は早速車の周囲と車内をくまなく見て回る。
第三者の足跡や匂いを探すが怪しいものはなく、車中に毒物や発信器などを仕掛けた形跡も見当たらない。
「……とりあえず何も仕掛けられてなさそうだ」
「呪術的に何かされてる痕跡もないわよ」
「ならさっさと行くぞ」