第5章 非日常にさようなら
走りながら周囲をくまなく探す。
ビジネスマンや私服の若者、おしゃべりに花を咲かせる女子学生達……
甚爾は一般男性と比較してもかなり背が高いから目立つはずなのだが、それらしき人物は見当たらない。
いない……
もうかなり遠くまで行ったってこと?
……あの洋館から最初に出ようとした時のスピードは凄まじかったものね。
本気で走られたら私は絶対に追いつけない。
……本当に置いていかれたのかも……
何も言わずに去ったことに言いたいことがないではないが、五条家が金を出さなくなったというのなら契約は白紙。
伽那夛にそれを知らせる義理もないという判断なのかもしれない。
そう、これは仕方ないことなのだ。
自分を納得させるように言い聞かせるが、急に寂しく、心細くなっていく。
洋館で遭遇した時は散々な目に遭ったけれど、初めて見るお店に連れていってくれたし、呪詛師達を撃退する時もなんだかんだ場所を選んでくれて、もしその呪詛師達を殺したらどんな気持ちになるのかを教えてくれた。
五条家に自分を認めさせることばかり考えていたのを諫められた。
今思えば、初めて自分を五条伽那夛として見てくれた人だった……
目の奥から迫り上がってくるものを首を振ってやり過ごし、両頬を軽く叩いて頭を切り替える。
「悩んでも仕方ないでしょ。これまでも1人でなんとかしてきたんだから、今回だって同じようにすればいいのよ」