第5章 非日常にさようなら
どうしよう……?
彼は呪力がないから、呪力を頼りに追うことができない。
ここから周囲500mくらいを手当たり次第探す?
多分術式を使えば周囲を探索するのはそこまで難しくない。
でももし本当に置いていかれたのなら見当違いだ。
周辺の人に甚爾を見ていないか聞くのは?
……目撃者がいるかどうか分からないが、当てもなく探すよりはまだ良さそう。
そうと決まれば行動あるのみ。
動き出すのが遅れる程、見つからない可能性も高まるのだから。
「すみません、少しいいですか?」
まずはコンビニ店員。
だが店の外まで見てなかったようで空振り。
今度はコンビニの外で煙草を一服中の男性。
「黒髪で口元に傷痕があって、このくらいの大男、見ませんでしたか?」
男からの返事はない。
それどころか、伽那夛の顔を凝視して手から煙草を落としそうになっている。
「……煙草が落ちそうだけど?」
そう指摘すると、男はハッとして慌てて煙草を灰皿に押しつけて消した。
「え、えっと、どうしたんですか……?」
「人を探してるのよ。黒髪の大男を見かけなかったかしら?」
「あ、あぁ、大男……」
ぼうっと伽那夛に見惚れるあまり相手はまともに返答も出来ない。
「もういいわ、他の人に聞くから」
「ま、待って。見た、見たよ、黒髪の大男。あっちに歩いてった」
「そう、ありがとう」
それだけ聞ければ十分、なぜそれをすぐに言わなかったのかとも思ったが、一応お礼を言って伽那夛は示された先にある歩道に走っていった。