第5章 非日常にさようなら
そこでふと気づいた。
店内をひと通り見たはずなのに甚爾がいない。
全ての棚を見たし、壁際にある冷蔵庫なども見た。
まだ見ていないのは店の隅にあるトイレくらい。
その近くには何やらいかがわしい雑誌の棚があるのでなんとなく避けてしまっていた。
なるべく見ないように目を逸らしてそそくさとトイレに入る……が、男性トイレは鍵がかかっておらず、中には誰もいないようだ。
「……どこ行ったのかしら?」
「……いないわね」
その後、狭い店内を2周ほどしても甚爾は見当たらなかった。
彼は背が高いから棚から頭が出るだろうと思って、ピョンピョン飛び跳ねて棚の上を覗いても見えない。
入れ違いになってもう車に戻っている?
いや、でもここの自動ドアは開いた時に音が鳴る。
自分が入ってからまだ一度も鳴っていないから誰も外に出ていないはずで……
しかし、これだけ店内を探しても見つからないということはここにはいないと考えるのが妥当だ。
きっと機械の調子が悪かったのだろうと無理やり納得して、外に出た。
「ここにもいない……」
車内はもぬけの殻だった。
……もしかして、置いてけぼり?
やっぱりお金は出さないとあの家から連絡があって、ここから1人で帰れとか?
いやいや、だとしても車は置いてかないでしょ?
自分も徒歩で帰る羽目になるんだから、私を起こして放り出すはず……
混乱と不安がない混ぜになり、思考が堂々巡りしてしまう。