第5章 非日常にさようなら
「引き渡しは断る」
「じゃあいくらなら引き受ける?こちらも金の用意はある」
「どんなに金積まれても受けねぇよ」
「チッ、交渉決裂か……ボスに連絡しろ」
後半は隣の者にしか聞き取れない小声だったが、甚爾の耳は聞き逃さなかった。
目にも止まらぬ早さで距離を詰め、男が取り出そうとしたスマホを握り潰す。
「なっ!?」
「悠長に連絡なんざ取らせる訳ねぇだろ、面倒事は嫌いなんだ」
息を呑む男達に拳を振り上げる。
別に殺してもいい……というか仲間を呼び寄せられる危険を考えると殺して黙らせた方が楽に済む。
そんなこと考えなくても分かることだ。
だから殺すつもりで拳を振り下ろそうとした。
……だが、
脳裏にチラついた伽那夛はきっとそれを良しとしない。
逆鱗に触れた相手すら殺さずに懲らしめるに留めた彼女は、自分の護衛のために甚爾が人を殺すことを許さない。
気づけば甚爾の足元には気絶した男2人が転がっていた。
「……アイツのこと結構気に入ってたんだな、俺は」
路地から出ると、聞き覚えのある足音がこっちに向かってくる。
「あ、いた!甚爾ーっ!」
呼び捨てかよ。
まぁアイツらしいといえばらしいか。
そちらに目を向けると伽那夛が駆けてきていた。