第4章 息抜き
後ろを振り向くと、伽那夛がむくれ顔で見上げてきた。
「1人でなんとかできたわよ!」
「1人のままだったら暴力に訴えてただろ。そうなったらこっちが迷惑被るんだよ」
「むぅ……!」
顔に不満だと書いてあるが、言い返してこないということは図星だったということだ。
「そろそろ出るぞ……と、その前に何か飲むか?」
「どういう風の吹き回しよ?」
「7人相手に大立ち回りしてから水分補給してねぇだろ。昼飯の時もろくに飲んでなかったし、そろそろ喉渇いてんじゃねぇの?」
洋館で呪骸の相手をしたり、ここに来る前に刺客を撃退したりと伽那夛の運動量は結構なものだ。
それに対して水分補給は昼食時に飲んだコップ1杯の水のみ。
ここまで順調にいっているだけに脱水症状でも起こされたら堪らない。
「……じゃあレモネードが飲みたいわ」
「そこの好みは年相応なんだな、大人ぶってアイスコーヒーとか言うかと思った」
「コーヒーなんて苦いだけじゃない。私は断然紅茶の方が好みよ」
ではなぜレモネードなのかというと、こういう場所で提供される紅茶は美味しくなさそうという伽那夛の主観だった。
ただ甚爾も特にそこは追求せず、伽那夛について来るよう促して売店へ向かう。
「ちゃんとついて来いよ」
「えっ、買ってきてくれるんじゃないの?」
「オマエ、おとなしく待ってられるか?1人にするとまた喧嘩起こさねぇか?」
「さっきのは明らかに向こうが悪かったでしょ!」
「だとしてもだ。オマエは世間知らずが態度に出ちまってるからな、そういう奴に狙われやすいんだよ。自覚しろ」
単に一般人なら先程のような事態はなかったかもしれない。
だが、伽那夛の場合はあれやこれやに興味深そうに目移りさせている上に見目が整っていることもあって目を引く。
難癖をつけてくるような連中からすると声をかけやすそうなのだ。
「だって見たことないものばかりなんだもの」
「ならそれが態度に出ないように気をつけるんだな」
ムスッとして文句を言い足りない顔だったが、その後ピーチソーダが入ったレモネードを買い与えたら、
「何このレモネード、美味しいじゃない!」
機嫌が直った。