第4章 息抜き
「そっちがよそ見して歩いてたからじゃない」
「あ?」
「自業自得だって言ってるのよ」
「人にぶつかっといてそれはないんじゃね?悪いことしたら謝るって常識、ママに教わらなかったのかよ?」
「そっちがぶつかってきたんだから、謝るのはそっちでしょ?」
どう考えても自分に非はない。
伽那夛はその姿勢を崩さなかった。
しかし、相手も相手で譲らない。
「何言ってんの?アンタがぶつかったから携帯が壊れたんだ。弁償してくれんだよね?」
「私は避けたのにあなた達がわざとぶつかってきてそれを落としたんじゃない!」
「わざとぶつかったって証拠あんの?」
「それは……!」
視界に入る限りでは防犯カメラなどの証拠を残せるものがない。
しかも相手の手には壊れた携帯電話。
周囲にこれだけ人がいるのだから目撃者は何人もいそうだが、ほとんどがレースのことばかり考えてよく見てなかっただろう。
物的証拠だけでは伽那夛の旗色が悪い。
口を噤んだ伽那夛の顔をまじまじと見た男達の表情が変わった。
「メッチャ可愛い顔してんじゃん。やっぱ弁償はいいや、その代わりちょっと俺達と遊んでよ」
男達は嬉々として腕を掴んでくる。
「っ、離してよっ!」
伽那夛が振り払おうとしても呪力強化していないのでびくともしなかった。
力で無理やり押さえつけられ、言いようのない恐怖が込み上げてくる。
だがそれに屈する伽那夛ではない。
力で押さえつけてくるならこちらも力で対抗するのみ。
非術師に呪力で危害を加えるのは禁止されているが、ここにはそれを見つけて咎める人間はいない。
思いきり蹴飛ばして、言いがかりをつけてきたことを後悔させてやる!
伽那夛が早速脚に呪力を巡らせると……
「ガキ相手に何つまんねぇことしてんの?」
たくましい腕が割り込んできて、伽那夛を掴んでいた男の腕を捕まえた。